DXとIT化の違いは「定義の定義」の違い
コンサルとして叱られそうですが、私はいまだにDXとIT化の違いが今ひとつ理解できません。
まず大雑把にネット上で説明されている「DX」と「IT化(デジタル化も含む)」の違いを整理すると、およそ次のようになります。
DX:デジタル技術を駆使し、経営のあり方やビジネスモデルを変革させ、社会や生活をより豊かにすること
IT化:情報技術を導入・活用することで、業務や顧客サービスの生産性や品質を高めること
またDXとIT化の関係で言えば、IT化は点の改善や改革のことで、例えば紙ベースだった経理業務を全てIT化することは経理領域で留まる話なら「DX」とは言えないようですね。
DXは、経営の仕組みや組織全体のイノベーションを促すものだと言った説明になっています。
一言で言えば一部か全体の改善、改革の違いといったところでしょうか。
あるいはこうした説明もありました。
「IT化はDXの手段の一つで、DXは目的(目指すべき結果)を指す」
経産省の説明からもそうした主旨は、伝わってきますね。
IT化という言葉は日本社会へ広く浸透してきたのの、点あるいは手段領域で留まっており、国民が生活の利便性だとか、豊かさが劇的に向上するといったレベルには到達していない。
そこで「社会や生活のあり方に変革をもたらす」という結果を重視した新しい概念が必要だ・・・それが「DX」だと。
まあ、言わんとしていることはぼんやりながらわかりますが、ここまでくると「定義のための定義」になっている気がしてなりません。
例えばテレビ画像がアナログからデジタル化された時、ちょっとした進歩どころではなくそれはそれは大きな変革でした。
国民の多くは双方向のデータ通信に驚き、画面の劇的な美しさも実感できました。
まさに「豊かな社会へと変革」した事例の一つですが、こうした結果を「デジタル化」と呼ぶのはダメで、ダメでわざわざ「DX(化)」と言い換える必要があるのでしょうか。
フランチャイズに大きく関わる事例でしたら、かなり古い事例ですがPOSシステムがあげられます。
POSシステムの登場も顧客情報管理や商品管理、売上管理などを劇的に変え、その結果として小売業などを中心に、顧客ニーズへの対応力の底上げも実現しました。
これらも「IT化」または「デジタル化」といった表現は不適切で、「DX」と呼称しないと「間違い」となってしまうのでしょうか。
このような議論は言葉遊びのようなもので、不毛に思えてなりません。
覚えていますか?「ICT」
死語になった訳ではありませんが、ICTという言葉を覚えておられるでしょうか。
ICTは「Information and Communication Technology」の略称。
日本語は「情報通信技術」となり、ITとの違いで言えば「通信技術」に比重が置かれた概念です。
しかしながらITとICTの違いを明確に理解し、使い分けを行っきてた企業が果たしてどれぐらいいたでしょうか。
まして一般国民となると「?」となってしまう方々が大半だったのではないでしょうか。
言葉とはその意味が正しく理解された上で使われてこそ、価値が伴います。
打ち上げ花火のようにあれこれ言葉を世に送り出すだけでは意味がないどころか、関連用語との違いがよくわからないことで却って混乱を招くことすらある訳です。
そうした負の側面にまで目をつぶって、「DX」という言葉にこだわる必要性を少なくとも現時点では感じることができません。
「IT化とDXの違いはよく理解できている」という方々であれば、DXを使うなといった横暴なこと申し上げるはないです。
しかし、言葉の理解が曖昧なまま「世間で流行している言葉だから」だとか「時代に乗り遅れてしまう」といった焦りや危機感だけで、DXを唱えることは避けるべきです。
下記をよく読んで頂いた上で、冷静に判断することが大切です。
FCはそもそもDXを推進べきなのか
DXのためのDX推進などナンセンスです。
企業は売上と収益性、その存在価値を高めることが優先すべき課題です。
その解決”手段”を検討した結果、全社一丸となってDXに取り組むべきとなったのでしたらDXに取り組むのも良いでしょう。
しかし店舗ビジネスが核となるFCの場合、DXを目指すことは役に立たないだけでなく、マイナスとなる場合もあることを考慮すべきです。
フランチャイズチェーンではありませんが、例えばサイゼリアの事例をご紹介します。
同社はテーブルにペンを備え、「オーダー用紙」に注文を書いて店員に渡すというサービスを敢えて維持しています。
オーダーテイクをタッチパネル方式や食券方式にするのが主流の中、DXとは逆とも言える取組みをなぜ維持しているのか。
その点について同社は「カスタマーインティマシー(顧客親密性)」を重視した結果と答えています。
翻訳すると、サイゼリアが顧客との親密な関係を築くには、手間を要したとしたも人による接客は省かず大事にすべきと判断したということです。
こうしたサイゼリアの考え方は、どんな業種業態のフランチャイズチェーンにも当てはまるとは言えません。
同じレストランチェーンでも、一人のお客様で二桁のオーダー数が発生する回転寿司となると、いちいち店員を読んで紙を渡すというのはお客様にとって大変な手間です。
作業負担感が強ければ、カスタマーインティマシーにとってもマイナスとなります。
しかしながら、店舗サービスは本来どうあるべきかを考えた場合、どのようなサービスを通じてそれを築くかはともかく、カスタマーインティマシーという考え方自体は決して蔑ろにすべきものではありません。
EC全盛の時代、店舗ビジネスの特有の存在意義として、付加価値として打ち出せるものが人を介したサービスだからです。
DXの御旗のもと、こうした手間を非効率と捉え、デジタル化してしまえば店舗サービスならではの付加価値が毀損されかねないのです。
・・・・と申し上げると、私はDXに反対で、時代に逆行した発想しかしていないように思われては困りますので、この点はしっかりと説明させて頂きます。
私はFCビジネス、特にフランチャイザーに対して「IT化」の推進を積極的に後押して参りました。
「IT化=DXに含まれるがDXそのものではない」との見識に従っての表現なら、上記は「DXではなくIT化」というだけの話です。
要はIT化がDXの一部に過ぎないなら、その一部であるIT化をまずはしっかりと行い、成功させることが先決と言えるのではないでしょうか。
その上で尚、企業価値を高めるためにはDXは不可欠なるのかどうか。
フランチャイズチェーンは特にその点をじっくり検討して頂きたいものです。