目 次
DXとIT化は何か違うの?
「DX」とは一体何でしょうか?
読者の皆様は「DX」をよく理解出来ているとの自信はございますか?
特に「DX」と「IT化(デジタル化も含ませて頂きます)」の違いは明確でしょうか?
コンサルなのにと叱られそうですが、私は用語解説を何度読んでも「DX」と「IT化」の違いが今ひとつ理解できません。
ネット上でDXとIT化は、およそ次のように説明されています。
●DX:デジタル技術を駆使し、経営のあり方やビジネスモデルを変革させ、社会や生活をより豊かにすること
●IT化:情報技術を導入・活用することで、業務や顧客サービスの生産性や品質を高めること
次にDXと、IT化の関係はおよそ次のように表現されています。
「DXは経営や組織全体のイノベーションを促すものであり、一方IT化は部分的な業務やサービスの改善、改革のこと」
両者の関係については、こうした説明もありました。
「DXを実現する手段の一つがIT化」
IT化という言葉は日本社会へ広く浸透したものの、部分的な効率化や改善に留まっている。
国民の生活が劇的に向上するといったレベルには、まだ到達していない。
そこで「社会や生活のあり方に変革をもたらす」という結果を重視した新しい概念が必要だ・・・それが「DX」だと。
経産省の意図を紐解くと、このようになるでしょうか。
まあ、言わんとしていることはわからなくもないですが・・・
「DX」といった何の英単語の頭文字かもすぐに想起できないよう言葉を、「「IT化」とは違うんだ!」と力んで普及させる必要性はやはり感じません。
例えばテレビ画像がアナログからデジタル化された当時、ちょっとした進歩どころではなく、大きな変革だったと言えます。
国民の多くは双方向のデータ通信に驚き、画面の劇的な美しさも実感できました。
まさに「豊かな社会へと変革」した事例の一つかと思います。
こうした結果を生み出した事象を「デジタル化」と呼ぶのはダメで、「DX(化)」と言い換える必要があるというのでしょうか。
もう一例、フランチャイズに関わる事例であげますと、「POSシステム」の登場があげられます。
POSシステムが登場した当時も、店舗の顧客情報管理や在庫管理、売上管理などが劇変しました。
店舗売上の戦略的な分析も、POSシステムがなければ実現しなかったと言っても過言ではありません。
これも現在であれば「IT化」または「デジタル化」といった表現は不適切で、「DX」と言わなければならないのでしょうか。
当時は「IT化」の成功事例として、もてはやされていたはずなのですが・・・
覚えていますか?「ICT」
死語になった訳ではありませんが、「ICT」という言葉を覚えておられるでしょうか。
ICTは「Information and Communication Technology」の略称。
日本語では「情報通信技術」のことで、「IT」との違いで言えば「通信技術」に比重が置かれた概念と説明されています。
まあ、ICTも言葉が登場した当時「やれやれ・・・」と、DXと似たような感想を抱きました。
実際、ITとICTの違いを明確に理解し、使い分けできていた企業や国民は果たしてどれぐらいいたのでしょうか?
言葉はその意味が正しく理解された上で使われてこそ、価値が伴います。
打ち上げ花火のようにあれこれ言葉を世に送り出すだけでは意味がないどころか、関連用語との違いがよくわからなくなり、却って混乱を招く場合すらある訳です。
そうした負の側面にまで目をつぶって、「DX」という言葉にこだわる必要性を感じることはできません。
ただし、私は「DXという言葉を使うな」と言いたいのではありません。
「世間で流行している言葉だから」
だとか
「時代に乗り遅れてしまう」
といった焦りや危機感だけで、DXを唱えることは避けるべきだということが一つ。
もう一つは
「DXとIT化の意味の違いにこだわる必要はないし、間違えることをおそれる必要もない。
わからない場合は「うちの会社にとってこれこれの取組みがDX(もしくはIT化)だ」と臆することなく、宣言して頂いてよい」
ということです。(口うるさいITコンサルから、色々と小言を言われる可能性はあるかもしれませんが(笑))
FCはそもそもDXを推進べきなのか
ではFCビジネスにおいてはDXをどう考えれば良いのでしょうか。
本部機能と加盟店舗を分けて考えた場合、特に後者では無理にDXを推進すべきでないというのが当方の意見です。
店舗ビジネスが核となるFCの場合、DXを目指すことは役に立たないどころか、マイナスとなる場合もあるからです。
例えば、FCではありませんが、サイゼリアの事例で説明します。
同社はテーブルにペンを備え、「オーダー用紙」に注文を書いて店員に渡すというサービスを敢えて維持しています。
オーダーテイクをタッチパネル方式や食券方式にするのが主流の中、DXとは逆とも言える取組みを維持しているのはなぜでしょうか。
その点について同社は
「カスタマーインティマシー(顧客親密性)を重視した結果」
と答えています。
翻訳しますと、サイゼリアは顧客との親密な関係を築くため、手間を要したとしたも、人による接客は省かず大事にすべきと判断したということです。
こうしたサイゼリアの取組みは、どんなフランチャイズチェーンにもピッタリと当てはまるとまでは言えません。
具体的な取組みの中身はそれぞれに合った方法を模索する必要があります。
しかしながら店舗サービスの本質を考えた場合、どんな業種であろうと「カスタマーインティマシー」という考え方は決して蔑ろにすべきではないのです。
EC全盛の時代において、店舗ビジネスの存在意義であり、付加価値として打ち出せるものが「人」を介したサービスだからです。
DXの御旗のもと、こうした手間を「非効率」と捉え、それらの解消に走れば店舗サービスならではの付加価値が毀損されかねません。
・・・・と申し上げると、私はDX推進に反対の立場だと思われそうですね。
私はフランチャイザー(の本部機能)に対しては、「IT化」の推進を積極的に後押して参りました。
「IT化はDXの一部にすぎない」との御高説に従うなら、私が後押ししたのはあくまで「IT化」であって、DXではありません。
IT化がDXの一部に過ぎないなら、その一部であるIT化をまずはしっかりと行い、本部機能に限定された部分改善であったとしても、それを成功させることが先決ではないでしょうか。
その上で「カスタマーインティマシー」を損ねることなく、チェーン店全体で取り組むべきDXのテーマがあるというのでしたら、はじめてその段階でDXに取り組めば良いと言えます。
フランチャイズチェーンは、特にその点をじっくり検討して頂きたいものです。